【無料 SF 小説】宇宙人、渋谷に降臨。〜侵略のつもりがバズってしまった件〜

第1章:静かなる降臨(序章)

渋谷の夜空は、いつもネオンと街灯に照らされて明るく、星が見えにくいことで有名です。34歳の高校教師、日野光一(ひの こういち)は、その夜も仕事を終え校舎を出た後、ふと空を見上げました。都市の喧騒に慣れた彼の目には、光が瞬く高層ビルの合間から、かすかに月が顔を出しているのが映ります。渋谷のスクランブル交差点から少し離れた場所に位置する学校の屋上からは、街のざわめきが遠くに感じられ、夜風が頬を撫でました。

「今日も一日、平和だったな」光一はそうつぶやいて、肩にかけた鞄を持ち直しました。毎日繰り返される授業と生徒たちとのやりとり――特別なことは何もない、いつも通りの日常です。それでも彼は、生徒たちの些細な変化や成長を見守るのが好きでした。中でも、教え子であるさくらという女子生徒の存在は、彼にとって少しばかり日常のスパイスになっています。彼女はAIと宇宙に目がなく、休み時間や放課後になると「先生、聞いてください! 昨日もすごい宇宙ニュースがあって…」と目を輝かせて話しかけてくるのでした。光一は苦笑しながらも、そんな彼女の話に毎回付き合っていました。正直、光一自身はUFOや宇宙人の存在について懐疑的でしたが、さくらの純粋な好奇心を否定する気にはなれなかったのです。

そのさくらが、今日はロボット研究部のミーティングで遅くまで残ると言っていました。彼女はAIに関するコンテストに出品する作品の打ち合わせだそうで、熱心に企画を練っていました。光一は自分の仕事が一段落したため、「先に失礼するよ。また明日」そう声をかけ、さくらより一足先に学校を後にしました。

校門を出て、渋谷駅に向かって歩き始めます。夜の街は相変わらず賑やかで、若者たちの笑い声や車のクラクションが混ざり合っています。スクランブル交差点では絶え間なく信号が変わり、無数の人波が四方八方へと流れていました。大型ビジョンには人気アイドルのCMが映し出され、その眩い光が夜空をも照らしています。光一は人混みを避けるように裏道へ入り、自宅のある方向へと歩みを進めました。ビルの壁面には派手な広告看板が輝き、足元には飲食店から漏れる明かりが点々と続きます。週末でもない平日だというのに、この街の活気は衰えを知りません。「渋谷は今日も元気だな」心の中でそう呟き、光一は小さく笑いました。

すると、ふいに背後から奇妙な気配を感じました。静かな路地裏にもかかわらず、一瞬だけ空気が震え、風が渦巻いたような感覚です。光一は思わず立ち止まり、振り返りました。しかし、薄暗い路地には自分以外の人影は見当たりません。不思議に思いながらも、気のせいかと首をひねり、再び歩き始めました。

その頃――。

渋谷の夜空、高層ビルの屋上近くに一瞬現れた小さな閃光は、誰にも気づかれることなく消えていきました。まるで夜に紛れるように、暗闇から二つの人影がそっと降り立ちます。屋上の隅で蠢くその影は、人間には見慣れない異形の輪郭をしていましたが、次の瞬間にはゆらめく光と共に人の姿へと変化しました。

「計画通り、目立たずに着陸できたな」低く静かな声が闇に響きます。ゾル=ヴァ――地球外からの訪問者である彼は、冷徹なリーダーです。黒い瞳で東京の街を見下ろし、鼻先でふっと息を漏らしました。「ここが人間たちの集う街か。思ったより…光が多いな」ネオンや巨大スクリーンの放つ眩い光に、一瞬だけ目を細めます。高層ビル群の谷間に走る無数の車のライト、行き交う人々のスマートフォンの画面、そのすべてが地上を煌々と照らしていました。

隣で肩をすくめた人影が、陽気な口調で答えました。「そらそうやろ、リーダー。ここは日本でも指折りの繁華街、眠らへん街っちゅうやつやで」関西弁混じりのその声音の主はゴンゴンです。同じく宇宙から来た仲間で、ひょうきんな性格の彼は、以前から地球の文化――特に「お笑い」に強い興味を抱いていました。宇宙の彼方で傍受した地球のテレビ放送の中でも、漫才やコメディ番組に夢中になり、日本語も独学で習得したほどです。その影響で、話し言葉がすっかり関西訛りになってしまいました。ゴンゴンは周囲を見回しながらにんまりと笑っています。「それにしても、ほんまに人間だらけやなぁ。この人混みなら、感情収集にはもってこいかもしれへんな!」

ゾル=ヴァは無言でゴンゴンの言葉に頷きました。彼ら二人は母星から派遣された調査隊です。任務――それは人類の持つ様々な「感情」を収集し、そのデータをもとに地球侵略の戦略を立てることでした。宇宙人である彼らの種族は高度な知能と技術力を持ちながら、喜怒哀楽といった感情をほとんど持ち合わせていません。それゆえ人間特有の感情を分析することで、新たなエネルギー源や軍事戦略への応用を見出そうとしていたのです。

「潜入を開始する。騒ぎを起こすなよ」ゾル=ヴァが手にした小型装置を起動し、腕時計のように装着しました。それは人間の感情を検知・記録するための「感情センサー」で、街中に潜伏しながらデータを収集できるというものです。ゴンゴンも同様の装置を腰のポーチに収めていました。「へいへい、わかっとるがな」ゴンゴンはおどけて敬礼し、相棒の後に続きます。

二人はお互いに頷き合うと、夜の闇に溶け込むように屋上から姿を消しました。人間の若い男性の姿に擬態した彼らは、非常階段を使って下の階へと降りていきます。ゾル=ヴァは紺色のスーツに黒髪短髪という、どこにでもいそうなビジネスマン風の姿に変身していました。ゴンゴンは派手な柄シャツにジーンズという少し奇抜な若者風の姿です。「リーダー、その格好キマってるで! まるでできるサラリーマンや」とゴンゴンが茶化すと、ゾル=ヴァは「任務のためだ」とそっけなく答えました。

一方、路地裏を歩いていた光一は、駅に向かう途中のコンビニエンスストアに立ち寄りました。晩御飯に簡単な弁当でも買おうかと棚を眺めていると、テレビのニュース映像が目に留まります。店内の小さなテレビでは、渋谷のスクランブル交差点の様子が映し出されていました。今日はハロウィンでも年末でもない平日にもかかわらず、大勢の若者が思い思いの仮装をして集まり、フラッシュモブのダンスイベントを行っているとのことです。賑やかな映像に苦笑しながら、光一は棚から幕の内弁当を手に取りました。

「今日は何かイベントでもあるんですかねぇ」レジに商品を持って行った光一は、会計をしながら店員に尋ねました。店員はレジ打ちの手を止めずに首をかしげます。「さぁ…私もさっきニュースで見ただけですけど、渋谷はいつも何かしらありますからね」淡々と答える店員に、光一は「確かにそうですよね」と笑って頷き、お釣りを受け取りました。そしてコンビニのビニール袋を片手に店を出ます。

夜の空には相変わらず星は見えません。しかしその見えない空の彼方から、静かなる“非日常”がそっと渋谷に降り立っていました。光一はまだ、その足音に気づいていません。彼は明るいコンビニの灯りから一歩外に出ると、昼間の喧騒が嘘のように静まり返った路地を抜け、自宅へと帰路につきました。光一にとってそれは、いつもと変わらない夜のはずでした――。

第2章:感情収集とバズりの始まり

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夜の渋谷の街に紛れ込んだゾル=ヴァとゴンゴンは、早速感情センサーを作動させながら歩き始めました。二人はビルを出てネオン煌めく通りへと繰り出します。そこには様々な人間たちが行き交い、笑い声や怒号、歓声やため息が交差していました。感情センサーの小さな画面には、周囲の人々の感情エネルギーが色と数値で表示されています。喜びは暖かなオレンジ、怒りは真紅、不安や恐怖は青、悲しみは深い紫――色とりどりの光点が渋谷の街を彩っていました。

「リーダー見てみぃ。この通り、笑顔がぎょうさんおるで!」ゴンゴンはセンサーを覗き込みながら嬉しそうに声を上げました。目の前では、先ほどニュースで見たというフラッシュモブのダンスイベントが続いています。仮装した若者たちが音楽に合わせて踊り、周囲の観客も手拍子をしながら笑顔でスマートフォンを向けていました。その場の高揚感に呼応するように、センサーにも「喜」のオレンジ色が次々と点滅しています。

「確かに…興奮と喜びの数値が高いな」ゾル=ヴァも立ち止まり、少し離れた場所からその光景を観察しました。踊る人々の表情、観客の歓声――どれも彼にとって見慣れないものです。母星では見られない活気に、一瞬戸惑いすら覚えました。「これが人間の“楽しさ”という感情か…」彼は静かに呟きます。データとしては理解していたものの、実際に目の当たりにするとその熱量に圧倒される思いでした。

「リーダー、せっかくやし近くで見てみよや!」ゴンゴンは興味津々で、人だかりの近くへ歩み寄りました。ゾル=ヴァも周囲に警戒しつつ後に続きます。二人は群衆の後ろに紛れ、しばらくそのダンスを見物しました。ゴンゴンは体でリズムを取りながら、「お、なかなかキレのあるダンスやん!」と手を叩いています。周りの観客に混じって楽しげに振る舞う姿は、完全に人間そのものです。

その様子を見て、ゾル=ヴァは内心舌打ちしました。「おい、あまり目立つな。任務を忘れるなよ」小声で注意しますが、ゴンゴンは笑顔のままひらひらと手を振りました。「分かっとるって。ただ、こういう場に溶け込む方が不自然じゃないし、データも集めやすいやろ?」確かに、その場の雰囲気に馴染んだ方が周囲に怪しまれずにすみます。ゾル=ヴァは渋々相棒の言うことを認め、再び人々に目を向けました。

すると突然、一人の若者がゴンゴンに声をかけてきました。「お兄さんも踊りませんか?」仮装したダンサーの一人が、観客に向かって一緒に踊ろうと呼びかけていたのです。思わぬ誘いに周囲の観客も「おー、やれやれ!」と囃し立てます。ゴンゴンは一瞬目を丸くしましたが、すぐににやりと笑いました。「ええで、ほなちょっとだけやってみよか!」そう言うや否や、彼は見よう見まねでダンスの輪に飛び込んでいきました。

「ちょ、ゴンゴン!」引き留める間もなく、ゾル=ヴァの制止は音楽にかき消されました。ゴンゴンは器用に踊り手たちの振り付けを真似し、時折コミカルなポーズを混ぜて観客を笑わせます。関西芸人さながらの愛嬌たっぷりの動きに、その場の盛り上がりはさらに増しました。観客からは笑いと歓声が巻き起こり、スマホで動画を撮影する人の姿もあります。ゾル=ヴァは額に手を当てつつも、センサーの数値を確認しました。画面には「喜」の値が急上昇し、オレンジ色の光が眩しいほど輝いています。

数分後、曲が終わりダンスが一段落すると、ゴンゴンは観客に向かって陽気に一礼しました。「おおきに!ええ踊りやったわ!」突然飛び入りで踊りに参加した彼に、観客から拍手が送られます。「兄ちゃんキレキレだったぞ!」「面白かったー!」と口々に賞賛の声が上がり、ゴンゴンは得意気に笑いました。ゾル=ヴァは呆れた様子で相棒の肩を掴み、「行くぞ」と半ば引きずるようにその場を離れました。

人混みを抜け、比較的人通りの少ない路地に入ったところで、ゾル=ヴァは足を止めます。「お前な…目立つなと言っただろう」低い声には明らかな苛立ちが滲んでいました。ゴンゴンは肩をすくめて悪びれた様子もありません。「しゃあないやん?呼ばれたら断る方が不自然やったし、たくさんデータも取れたやろ?」実際、ゴンゴンの言う通り喜びのデータは十分すぎるほど収集できました。しかしゾル=ヴァは人目に触れすぎたことを懸念しています。「次からは気をつけろ。予定外の行動は慎め」そう言い放つと、彼はくるりと背を向け再び大通りへ歩き出しました。ゴンゴンも「了解了解」と軽い調子で頷き、後を追います。


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一夜明けて、朝。光一は出勤前にスマートフォンのニュースアプリを何気なくチェックしていました。すると、昨夜渋谷で行われたフラッシュモブに飛び入り参加した謎の男性という記事が目に留まります。記事には、仮装ダンサーに混ざって踊るスーツ姿の男と派手なシャツの男の写真が掲載されていました。笑顔で踊る二人の姿はどこか微笑ましく、SNS上でも「一緒に踊ってたサラリーマン、キレキレで笑った」「謎の陽気な観光客が乱入して最高だった」と話題になっているようです。コメント欄には「次はどこで踊るの?」「正体は何者?」といった書き込みが相次ぎ、特に派手なシャツの男――ゴンゴンの姿は動画付きで拡散され、「#渋谷ダンス乱入」「#謎の関西弁男」といったハッシュタグがつけられてバズり始めていました。

「へぇ…こんなことがあったのか」光一は驚きつつ記事をスクロールしました。ふと、写真に写る男性二人にどこか違和感を覚えます。スーツ姿の男は無表情で踊っており(ゾル=ヴァは渋々付き合わされた格好で写り込んでいたのです)、もう一人は満面の笑みで観客に手を振っていました。この対照的な二人組に、光一は「なんだか面白いコンビだな」とクスリと笑いました。

学校に着くと、案の定さくらが興奮した様子で駆け寄ってきました。「先生、昨日のニュース見ましたか!? 渋谷でダンスに飛び入りした二人組の動画!」彼女はスマホ片手に早口でまくしたてます。「ネットでは『宇宙人ではないか』なんて冗談も出てるんですよ! だって、一人は関西弁で変な動きするし、もう一人は無表情で妙にキレのある動きだし…普通じゃないですよ!」興奮するさくらに、光一は苦笑しました。「落ち着けって。たまたま陽気な人たちがいただけだろう?仮装もしてたみたいだし、ハロウィンの延長みたいなものじゃないか」そう言いながらも、彼も朝見た記事の写真を思い浮かべます。確かにあの二人の雰囲気は少し奇妙でした。

「先生はロマンがないなぁ」さくらは頬を膨らませました。「でも渋谷ですよ?何かあるかもしれません!私、今日放課後にちょっと見に行ってみようかな…」いたずらっぽく笑う彼女に、光一はあきれて肩をすくめます。「ダメだぞ、あまり夜遅くまで出歩いたら。渋谷は危ないんだから」そう言いつつも、さくらの好奇心は止まりそうにありません。「大丈夫ですって!先生も一緒に行きましょうよ、ね?」予想通りの誘いに、光一は困ったように頭をかきました。生徒を夜の繁華街に一人で行かせるわけにもいきません。結局、「はぁ…わかったよ。ただしあまり遅くならない範囲でな」と付き添うことを約束せざるを得ませんでした。


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同じ頃、ゾル=ヴァとゴンゴンは朝を迎えていました。昨夜はそのまま渋谷のネットカフェで休息を取った二人ですが、ゴンゴンは初めてのネットカフェ体験に大興奮でした。「いやぁ、人間の施設っちゅうんは便利やな!ドリンク飲み放題に漫画読み放題、最高やで!」ゴンゴンは棚から人気漫画を次々と引っ張り出し、「うわ、この発明品おもろ!」「なんやこのバトル展開は…熱いでぇ!」とボソボソ声を漏らしては、一人で興奮しています。隣のブースから「シーッ…」と迷惑そうな声が聞こえてくると、「お、おう、すまん…」と慌てて声を潜めましたが、またすぐに夢中でページをめくり始めました。ゾル=ヴァはそんな相棒に呆れつつも、無防備に笑みを浮かべるゴンゴンの横顔に目を留めました。人間の娯楽に興じる姿は、もはや自分たちと同じ種族とは思えないほどでしたが、その楽しそうな様子にゾル=ヴァの胸にはほんのわずか温かなものが灯っていました。しかし本人はそれに気づかぬ振りをして、収集データの整理に集中するのでした。

朝になり、二人はこっそり店を出ます。早朝の街は深夜の喧騒が嘘のように静かですが、それでも通勤通学の人波が動き始めていました。ゾル=ヴァは腕の装置を操作し、昨夜収集した感情データを確認します。喜びのデータは十分に得られたが、他の感情も集めねばなりません。「次は効率よく別の感情を収集するぞ」ゾル=ヴァが真剣な面持ちでそう告げると、ゴンゴンは欠伸を噛み殺しつつ「了解や」と答えました。

午前中、二人は渋谷の街を歩き回りながら引き続きデータ収集を続けました。通勤ラッシュで苛立つ人々からは「怒」の赤い反応が点在し、カフェで一人読書をする若者からは静かな「安らぎ」の緑色が微かに漂っていました。公園では幼児を遊ばせる親子の姿に「愛情」の桃色が滲み、オフィス街では忙しなく足早に歩くビジネスマンたちから「焦り」の黄色がちらほらと見受けられます。ゴンゴンはセンサーの表示するカラフルな感情の光景に「なんや、感情って言うても色々あるんやなぁ」と感心しました。「母星では考えられへん多様さや」と呟く彼に、ゾル=ヴァも同意します。「人間の感情エネルギーは我々の予想以上に豊富だ。戦略への応用価値も高いだろう」彼はそう分析しながらも、昨夜目にした人々の笑顔を不意に思い出していました。

ふと、道端から物悲しげな旋律が聞こえてきました。二人が音のする方を見ると、路上ライブを行う若い男性がギターを抱えて座っています。切ないバラードが街角に響き、足を止めて聴き入る人々の姿がありました。曲の歌詞は失恋の痛みを歌ったもので、その声には深い哀愁が滲んでいます。そばで聴いていた中年の女性はハンカチで目頭を押さえていました。センサーの画面には「悲」の値が上昇し、紫色の光がじんわりと広がっています。

「悲しみの感情…か」ゾル=ヴァは表示を見ながら呟きました。ゴンゴンも神妙な面持ちで歌声に耳を傾けています。「なんやろな、この胸にズーンと来る感じ…。これが“哀しい”っちゅう感情なんやろか」いつになく静かな彼の横顔に、ゾル=ヴァも視線を移しました。「人間は自ら音楽や物語で悲しみを紡ぎ、それを共有するのか。不思議な行動だが…興味深いな」そう言いつつも、心のどこかで胸が締め付けられるような感覚がわずかに芽生えていました。それが何なのか、ゾル=ヴァ自身まだ理解できません。しかし、人間が涙を流す姿を見ていると、ただのデータ収集では割り切れない思いが胸の内に広がっていきます。

やがて曲が終わり、周囲の人々は拍手を送りました。ギタリストは照れくさそうに一礼し、女性に向かって「ありがとうございました」と微笑みます。涙を拭っていた女性も「素敵な歌をありがとう」と声をかけ、少し晴れやかな顔をしています。その様子に、センサーにはほのかな温かいオレンジ色が混じりました。「悲しみの後に、生まれる感情…か」ゾル=ヴァは腕組みしながら考え込みましたが、答えは出ません。それでも、ゴンゴンが「ええ歌やったなぁ…」としみじみ呟くのを聞いて、ゾル=ヴァは小さく頷きました。

正午が近づき、二人は一旦人気の少ない路地に入って作戦会議をすることにしました。「さて、午後はどう動く?」ゾル=ヴァが壁にもたれて地図アプリを開きつつ問いかけます。ゴンゴンは腕を組んで考えました。「うーん…いろんな感情言うたら、恋愛とかどうやろ?」彼は近くの電信柱に貼られたカップル向けイベントのポスターを指差しました。そこには「カップル限定!涙のラブストーリー映画上映会」などと書かれています。「恋愛映画でも観に行ったら、ロマンスとか感動とかのデータ取れるんちゃう?」冗談めかして言うゴンゴンでしたが、ゾル=ヴァは意外にも「一理ある」と頷きました。「人間の愛情や感動…それも貴重な感情データだ。よし、その映画イベントとやらに潜入してみるか」こうして二人は、午後に開催される映画上映イベントに向かうことを決めました。

ところが、その矢先である。ゴンゴンが何気なくスマホをチェックしていると、顔色を変えて「あかんリーダー!大変や!」と叫びました。彼は昨夜撮影された自分たちの写真がSNS上で拡散されているのを見つけたのです。スマホ画面には自分たちの姿がばっちり映り、コメント欄には「また踊ってほしい」「次はどこに現れる?」など好奇の声が溢れています。極めつけは「宇宙人説」まで冗談半分に囁かれていました。「わ、ワレらちょっと有名人になってもうてるやん…!」ゴンゴンは嬉しいような困ったような顔です。

ゾル=ヴァは画面を覗き込み、表情を曇らせました。「これは不味いな…人間に注目されすぎるのは本意ではない」彼はこの予想外の事態に舌打ちしました。任務はあくまで極秘裏に遂行すべきものであり、注目を浴びては支障が出ます。「昨夜のお前の目立ちすぎる行動のせいだ」冷たい声でそう指摘され、ゴンゴンは「うっ…すんまへん…」と肩をすぼめます。

「仕方ない、しばらくは慎重に動くぞ」とゾル=ヴァは決断しました。しかし心の中では別の不安が渦巻いています。人間に自分たちの正体を知られるわけにはいかない。だが既に“謎の二人組”として認知されてしまった今、下手に動けば却って怪しまれる可能性もある。ゾル=ヴァは感情センサーに記録されたデータを確認しながら考え込みました。収集任務は順調ではあるが、このままでは計画に支障が出るかもしれない…。

「リーダー…どうするん?」ゴンゴンがおずおずと尋ねました。ゾル=ヴァは一瞬考え、「予定を変更する。映画の前に、もう一つデータを取っておきたい」と答えました。「もう一つ?」ゴンゴンが首を傾げると、ゾル=ヴァの目が鋭く光ります。「恐怖だ」その一言に、ゴンゴンは思わず息を呑みました。

「恐怖の感情データは他と比べて強力だ。我々の兵器との相性を調べる必要がある」ゾル=ヴァは淡々と続けます。「今夜、人気のない場所で人間に直接恐怖を与える。そしてデータを取る」ゴンゴンはぎょっとしました。「ちょ、ちょい待ち!それヤバない?人間ビビらせるって、下手したら警察沙汰やで!」慌てる彼に、ゾル=ヴァは静かに言い放ちます。「だから人気のない場所で行う。それに対象は一人でいい。すぐに記憶処理を施して撤収する」その冷静すぎる提案に、ゴンゴンは思わず言葉を失いました。

「…わかったわ。でも下手うったらあかんで、リーダー」いつになく真剣な表情で念を押すと、ゾル=ヴァは小さく頷きました。「任務のためだ。感情データ収集が最優先事項であることは忘れるな」二人はその場で作戦を確認し合い、午後の行動に移るため路地を後にしました。

第3章:人間との接触と友情の芽生え

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夜の帳が下りた渋谷の一角――人通りの少ない細い路地に、二つの影が潜んでいました。ゾル=ヴァとゴンゴンです。彼らは壁際に身を潜め、辺りを窺っていました。「ここなら人目も少ない。ちょうどいいだろう」ゾル=ヴァが小声で言います。街灯がちらほらと灯るだけの薄暗い路地は、確かに人通りがほとんどありません。時折、遠くから車のエンジン音が聞こえる以外は静かなものでした。

「ほんまにやるんか…」ゴンゴンは緊張した面持ちで呟きました。恐怖の感情データ収集のため、人気のない場所で人間を驚かせる――それが彼らの立てた計画です。しかしゴンゴンは気が進みません。これまで楽しげなデータ収集ばかりしてきた彼にとって、人間を怖がらせるという行為は少し後ろめたさがありました。「しゃーない、任務や」と自分に言い聞かせるように呟き、彼も身を潜めます。

やがて、一人の人影が路地の奥から現れました。ふらりと歩くその姿は若い女性のようです。時刻は夜9時過ぎ、人通りの多いメインストリートから外れたここを歩く人物は珍しい。ゾル=ヴァはゴンゴンに目配せすると、静かに頷きました。「行くぞ」低い声が響き、ゴンゴンも緊張の面持ちで頷き返します。

女性――実は渋谷探索に繰り出していたさくらでした。彼女は放課後に光一と合流し、一緒に渋谷の街を訪れていました。さくらは「謎の二人組」を探す気満々でしたが、広い渋谷で手がかりもなく当てもない探索は困難です。光一は「ほら見ろ、やっぱりそう簡単に見つかるわけないだろ」と苦笑しつつも、内心ほっとしていました。これ以上遅くなる前に切り上げさせねば…そう思い始めた頃、さくらが「先生、あっちの路地行ってみましょう!」と指差したのがこの場所でした。

「おい、あまり奥に入るな」光一は慌てて引き止めようとしましたが、さくらは「大丈夫ですよ、ちょっと見るだけですから!」と聞く耳を持ちません。結局心配した光一が後を追い、二人して薄暗い路地に足を踏み入れてしまったのです。さくらのスマホの明かりだけが頼りの細い道に、一抹の不安がよぎります。光一は周囲を警戒しつつ、「もう帰るぞ、さくら」と声をかけました。しかし、好奇心旺盛なさくらは「もう少しだけ…ね?」と譲りません。

その時でした。路地のさらに奥、闇の中から不意に奇妙な音が響き渡ったのです。ビリビリ…と何かが焼け焦げるような音。そして次の瞬間、さくらと光一の目に信じられない光景が飛び込んできました。暗闇に浮かび上ったのは、人間とは思えない巨大な影――まるで映画のモンスターのような異形の姿です。赤く光る二つの目がこちらを睨み、鋭い牙の生えた口が裂けるように開閉しています。

「きゃっ!」さくらは悲鳴を上げ、思わず光一の腕にしがみつきました。光一も一瞬足がすくみましたが、必死でさくらの前に立ちはだかりました。「な、なんだこれは…!」彼の声は震えています。怪物のような影はグワァと不気味な咆哮を上げ、一歩ずつ二人に迫ってきました。街灯の下にその姿が現れると、それは灰色の鱗に覆われた身長3メートルはあろうかという化け物でした。人間離れした長い腕には鋭い爪が光り、見るからに凶悪です。

「先生…!」さくらが震える声で光一の背中越しに叫びました。光一自身も恐怖で喉が引きつりそうでしたが、必死に平静を装いました。「大丈夫、俺がいるから…」そう言ったものの、内心はどうしたら良いか分かりません。このままでは二人とも危ない――そう感じた瞬間です。

怪物が大きく腕を振り上げたかと思うと、突然その動きがピタリと止まりました。同時に、ズシン…という鈍い音と共に怪物の巨体が地面に崩れ落ちます。何が起きたのか分からず、光一とさくらは唖然としました。次に聞こえてきたのは「痛っ…」という人の声です。

見ると、怪物の姿はゆらゆらとかき消され、その下から二人の人影が現れました。一人は紺色のスーツの男性、もう一人は派手な柄シャツの男性――光一が朝のニュース記事で見た写真と同じ二人組です。シャツの男、ゴンゴンが頭をさすりながら立ち上がりました。「いったた…勢いつけすぎて壁に突進してもうたがな…」どうやら怪物の幻影は彼らが投影していたもので、ゴンゴンが操作を誤って自爆したようです。

もう一人のスーツ男――ゾル=ヴァは地面に落ちた小型装置を拾い上げ、舌打ちしました。「何をやっている!計画が台無しだ」その声は低く怒りに震えています。ゴンゴンはばつが悪そうに肩をすくめました。「す、すまへんリーダー…ちょっとびびらせよう思たら、やりすぎてもて…」どうやら怪物のホログラム映像を投影して脅かそうとしたものの、出力を上げすぎたあまり自分たちが巻き込まれ、壁に激突したようでした。

突然現れた二人組に、光一とさくらは呆然としています。恐怖が一転して状況が飲み込めないまま、しばし路地に静寂が訪れました。先に口を開いたのはさくらです。「あなたたち…昨日の…!」彼女は震える声で言いましたが、その瞳は興奮に輝いていました。ゴンゴンは「お、お嬢ちゃん…怪我ないか?」と気まずそうに尋ねます。さくらはコクリと頷きました。「だ、大丈夫です…先生も…」光一も混乱しながら「え、あ、あぁ…」と返します。

ゾル=ヴァは二人の様子を一瞥すると、ゴンゴンに命じました。「記憶処理をする」そう言って懐から銀色の小さな装置を取り出します。光一とさくらの方に向き直り、無表情のまま装置を起動させようとしました。「待ってください!」さくらが声を張り上げました。彼女は光一の腕を掴みながら、一歩前に出ます。「あなたたち…宇宙人…ですよね?」恐る恐る尋ねるその質問に、光一は「さ、さくら!?」と目を見開きました。

しかし当のさくらは興奮気味に続けます。「昨日のダンスの動画も見ました!関西弁でおもしろい動きしてたの、あなたですよね?」指を差されたゴンゴンは「え、あ、そうやけど…」と返答に困ったようです。ゾル=ヴァは眉をひそめ、「君たちは我々を見なかったことにしてもらう」と冷たく言い放ちました。装置から発せられる光が二人を包もうとします。

「いやです!」さくらはきっぱりと言い切りました。「こんな体験、一生に一度かもしれないのに忘れるなんて絶対嫌です!」まさかの返答に、ゾル=ヴァは一瞬動きを止めました。「…我々の正体を知られては困る」淡々と告げるゾル=ヴァに、さくらは食い下がります。「秘密は絶対守ります!誰にも言いませんから!」そして震える声で懇願しました。「お願いします、少しだけでいいんです…あなたたちの話を聞かせてください!」

光一も我に返り、さくらの隣に立ちました。「そ、そうだ…彼女の言う通りです。俺たちは誰にも言いません。だから…せめて話をさせてくれませんか?」自分でも信じ難い提案をしている自覚はあります。しかしこのまま記憶を消されるなど、教師として連れ出した手前、さくらにそんな思いをさせるのは忍びありませんでした。それに何より、純粋に光一自身も彼らの正体に興味が湧いてしまっていました。

ゾル=ヴァは二人の必死の様子に、一度静かに目を閉じました。「…ゴンゴン」小さく名前を呼ばれ、ゴンゴンは「ど、どうする?」と伺うようにゾル=ヴァを見ます。数秒の沈黙の後、ゾル=ヴァは装置を下ろしました。「わかった。時間を限って話をしよう。ただし我々の正体について他言は無用だ」その言葉に、さくらと光一は顔を見合わせ安堵します。

「ありがとうございます!」さくらがパッと笑顔になり、ゴンゴンはホッと息を吐きました。「まったく…予想外の展開だ」ゾル=ヴァは首を振りつつも、小さくため息をついています。


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それから近くの24時間営業のファミリーレストランで、四人は向かい合って腰を下ろしました。テーブルには夜食代わりにと頼んだドリンクと軽食が並びます。ゴンゴンは早速興味深げにグラスを手に取り、中の炭酸飲料を一口飲みました。すると「シュワッ!」と喉に刺激を受けたのか、目を丸くして咳き込みます。「な、なんやこれ!口の中でパチパチ弾けよる!」と驚くゴンゴンに、さくらはクスリと笑いました。「それはコーラですよ。炭酸って言って、地球の清涼飲料です」「ひえー、びっくりした…でもクセになるかも!」ゴンゴンは喉をさすりつつも興味津々でもう一口含み、「ぷはぁ、生き返るわ!」とニッコリしました。一方、ゾル=ヴァは皿に乗ったフライドポテトを一本つまみ、慎重にかじってみます。塩味の効いたジャガイモのスナックは彼の味覚にも合ったようで、僅かに眉を上げました。「…油分と塩分が効率的に摂取できる食品だな」感想が真面目すぎるゾル=ヴァに、光一とさくらは思わず顔を見合わせて笑ってしまいます。ゾル=ヴァは「何がおかしいのだ?」と首を傾げましたが、その口元にはごくわずかに笑みが浮かんでいました。

コーヒーの香りが漂う中、改めて明るい店内で見る二人の姿は、どう見ても普通の人間の青年男性でした。ゾル=ヴァは無表情に窓の外を見つめ、ゴンゴンは落ち着かない様子で周囲をキョロキョロしています。さくらは興奮冷めやらぬ様子で身を乗り出し、「あの、宇宙ではどんな生活を…」と質問を投げかけかけそうになり、光一に「こら、落ち着け」と小声で制されました。

ゾル=ヴァが静かに口を開きました。「我々は…遠い星から来た探査者だ。地球の…人間の感情について調査している」感情について――その言葉に光一とさくらは顔を見合わせます。「どういうことですか?」光一が尋ねると、ゾル=ヴァは腕時計型の感情センサーを示しました。「この装置で人間の感情エネルギーを計測・収集している。我々の星では感情というものが希薄でね…君たち人類の感情には大きな力があると考えている」

「感情に…力?」さくらは不思議そうに小首を傾げました。ゴンゴンが説明を引き取り、「せや、人間は嬉しかったり悲しかったり怒ったり、色んな感情でエネルギーを発しとる。それをデータにして分析しとるんや」と言います。「例えば昨日のダンスでは、みんなの楽しいいう気持ちがようさん集まったんやで」と笑うと、さくらは「確かに、あの場にいたら楽しくなりそうですもんね!」と大きく頷きました。

「それで、君たちはずっとその“感情エネルギー”を集めていたのか?」光一が尋ねると、ゾル=ヴァが応じます。「ああ、渋谷という街はあらゆる感情が渦巻いている。我々が調査対象として選んだ理由だ」静かに語る彼の横顔を見つめ、さくらは声を弾ませました。「やっぱり宇宙人だったなんて…すごいです!夢みたい…!」憧れが叶ったと言わんばかりの彼女の瞳には、興奮の涙すら浮かんでいます。その純粋な反応に、ゴンゴンは思わず微笑みました。「お嬢ちゃん、ほんまに宇宙好きなんやなぁ」さくらはハッとして恥ずかしそうに笑います。「す、すみません…。でも本当に感激で…!」

光一も苦笑しながら、「確かにな、まさか本当に宇宙人に会うとは思わなかった」と頷きました。「君たちはこれからどうするつもりなんだ?」そう問うと、ゾル=ヴァは一瞬視線を伏せました。「…引き続きデータ収集を行う。規定量を集め終えれば我々は帰還する」感情を交えずに淡々と述べるその態度に、光一は僅かに違和感を覚えます。さくらも同様でした。「帰っちゃうんですか?」思わず寂しそうな声が漏れます。「もっとお話したいこと、いっぱいあるのに…」

さくらは悔しそうに唇を噛みしめ、続けました。「私、小さい頃からいつか宇宙人に会いたいって思ってたんです。夜に家のベランダで星を見ながら、“もし宇宙人がいたら、友だちになりたいな”って…。ずっと夢見てきたことが現実になったのに、すぐ帰っちゃうなんて…悲しいです」ぽろりと一粒、さくらの瞳から涙が零れ落ちました。光一は隣で彼女の肩に手を置きます。「この子は本当に宇宙やAIの話が大好きでね。学校でもいつも宇宙ニュースを教えてくれるんですよ」そう苦笑しながらも、その目には教え子を想う優しさがありました。「だから、君たちに会えたことが本当に嬉しいんです」

「任務だからな」とゾル=ヴァはそれ以上の説明を避けるように言いました。ゴンゴンが気まずそうにフォローします。「ま、まあ、ウチらも上からの指示で動いとる立場やし…」と曖昧に笑いましたが、その笑顔もどこか影があります。

気まずい沈黙が流れました。さくらは沈んだ表情でストローをいじっています。光一は何とか雰囲気を変えようと、「ところで君たち、日本にはいつから?日本語も随分上手だな」と話題を振りました。

「ああ、それは地球に来る前に言語データを学習したんや」とゴンゴンが応えます。「オレはたまたま関西のお笑い番組にハマってもうてな、気付いたらこんな喋り方になっとったわ。変やろか?」照れ臭そうに頭を掻くゴンゴンに、さくらはくすっと笑いました。「ふふ、素敵だと思います!関西弁、面白くて好きです」褒められたゴンゴンは「せやろか、照れるなぁ」と頬をかき、先ほどまでの緊張が和らいだ様子です。

ゾル=ヴァは窓越しに夜空を見上げていました。ネオンに霞んで星一つ見えない空。その視線の先にある故郷を思い浮かべていたのかもしれません。ふと、「感情とは…不思議なものだな」と彼が零しました。光一が「え?」と聞き返すと、ゾル=ヴァは手元のセンサーに目を落とします。「人間の感情をこうして集めているうちに、わずかだが…理解できるような気がしてきた。我々にはないものだからこそ、なおさら興味深い」珍しく饒舌に語るゾル=ヴァに、光一は意外な思いで耳を傾けました。

「人間は些細なことで笑い、泣き、怒り、そしてまた誰かを想って行動する。それは脆弱性でもあり、しかし強さでもあるのだな」淡々としながらも、その声はどこか遠くを見るように優しい響きを帯びていました。さくらは目を丸くしました。「なんだか…ゾル=ヴァさん、詩人みたいです」彼女がそう言うと、ゾル=ヴァは一瞬きょとんとしましたが、「…詩人? 私がか?」と首を傾げました。光一が笑って「今の言い方、少しロマンチックでしたよ」と補足します。ゾル=ヴァはわずかに頬を赤らめ、「そうか…自覚はなかった」と視線を逸らしました。その仕草に、さくらと光一は驚きました。冷徹なはずの異星人のリーダーが、まるで照れているように見えたのです。

ゴンゴンはそれを見て大袈裟に目を擦りました。「お、オレの目ぇおかしなっとるんやないやろな?リーダーが赤面してるように見えるんやけど…!」からかうような口調に、ゾル=ヴァは「バ、バカなことを言うな」と咳払いしました。その様子に場の空気が柔らかくなり、四人の間に小さな笑いが起きました。

気がつけば、さくらとゴンゴンはすっかり打ち解け、漫画やアニメの話題で盛り上がっています。ゴンゴンが「実はドラえもんが好きでな…」と告白すれば、さくらは「私もです!22世紀のネコ型ロボット、夢がありますよね」と嬉しそうに返すなど、世代も星も超えたオタクトークに花が咲きます。光一とゾル=ヴァはそれを少し離れた目線で眺めつつ、それぞれ静かにドリンクを飲みました。

「あなたは…楽しいですか?」ふいに光一が問いました。ゾル=ヴァはカップを置き、「楽しい…?」とその言葉を反復しました。「そうだな…こんな風に人間と直接話す機会は想定していなかった。奇妙なものだ。任務以外で時間を費やすなど、本来ならあり得ないことだからな」淡々と語る彼に、光一は微笑みました。「でも、任務から離れたからこそ得られるものもあるんじゃないですか?あなたがさっき言ったような感情の理解とか…友情とか」言葉に詰まるゾル=ヴァに、光一は続けます。「僕は教師だからかもしれませんが、人との関わりから学ぶことは多いと思っています。あなたたちが人間の感情を調べているのも、結局は人との関わりからでしか得られないんじゃないかな」

ゾル=ヴァは目を伏せて聞いていましたが、やがてゆっくりと光一を見ました。「…君は奇妙な人間だな。恐怖もせず我々に説教するとは」その言葉に光一は慌てて首を振りました。「す、すみません、偉そうに…。ただ、あなたがさくらとゴンゴンさんを見て笑っていたから…」そう、ゾル=ヴァは気づいていないかもしれませんが、先ほど彼は僅かに笑みを浮かべていたのです。ゴンゴンがさくらとアニメ談義で盛り上がる姿を見て、ゾル=ヴァの口元が柔らかく緩んでいたことを、光一は見逃しませんでした。「俺は別に…」そう反論しかけたゾル=ヴァでしたが、言葉を飲み込みます。内心、自分でも説明のつかない感覚が芽生えているのを感じていました。それが何なのか、彼はまだ理解できていませんでしたが。

やがて夜も遅くなり、店を出ることにしました。気づけば日付が変わる時刻です。「そろそろ解散しようか」と光一が提案しました。「遅くまでありがとうございました。なんだか押しかけちゃって…」光一が二人に頭を下げると、ゴンゴンは「ええんよええんよ、オレらも楽しかったし」と笑います。さくらは別れを惜しむように「またお会いできますか?」と尋ねました。ゴンゴンは「おうとも!お嬢ちゃんにはまた漫才見せたらなあかんからな!」とウインクし、さくらを喜ばせました。ゾル=ヴァは静かに「状況次第だが…機会があれば」と言葉を濁しましたが、嫌がっている風ではありませんでした。

「じゃ、ワレらはここらで失礼するわ。ほなな!」ゴンゴンが手を振り、ゾル=ヴァも一礼します。光一とさくらも「気をつけて」と見送りました。二人組が夜の闇に消えていった後、さくらは大きく息を吐きました。「はぁ…夢みたいでした…!」胸の前で手を組み、うっとりと星を見るような瞳です。光一は隣で笑いました。「まったくだ。本当にとんでもない夜になったな」彼はさくらの存在に改めて感謝していました。もし彼女に誘われなければ、こんな未知との遭遇はなかったのですから。

「先生、明日からどうしましょう?」さくらが唐突に言いました。「え?」と聞き返すと、「だって、彼らのこと、私たちしか知らないんですよ。何か力になれることあるかなぁって」と目を輝かせています。光一は苦笑しました。「気持ちはわかるが…僕らに何ができるかな。とりあえず普段通り過ごすしかないだろう。約束した通り秘密は守るんだ」そう言いながらも、彼自身もどこか浮ついた気分でした。地球外生命体と友情を交わしたかもしれないという高揚感が、胸の奥に灯っていたのです。

二人は駅へ向かって歩き始めました。渋谷の街は相変わらずネオンが瞬き、人々の笑い声が響いています。しかしその夜見た光景は、光一とさくらにとって何よりも輝いて思えました。心なしか、いつもは雑踏に感じる人波が愛おしく思えてくるから不思議です。「先生、これからもっと忙しくなりますよ!」さくらが微笑みながら言います。「ん?何がだ?」と尋ねると、「だって、宇宙人のお友達ができちゃったんですから!」無邪気に笑う彼女につられて、光一も笑いました。「確かにな。じゃあしっかり寝て体力をつけておかないとな」冗談めかして言う先生に、二人だけの秘密を共有する生徒は声を上げて笑いました。

こうして、人間と宇宙人の不思議な友情が芽生えた夜は更けていきました。

第4章:地球侵略会議と裏切り

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翌朝。土曜日の穏やかな陽射しが校舎に差し込む中、光一は職員室で溜息をついていました。昨夜の出来事が信じられず、ぼんやりと窓の外を眺めてしまいます。生徒たちの楽しげな声がグラウンドから聞こえてきますが、心ここにあらずといった状態でした。彼の頭には、ファミレスで過ごしたあの不思議な夜が何度も思い返されていました。目の前で起きた信じ難い出来事の数々――宇宙人との出会い、語り合った時間、別れ際に見せたゾル=ヴァのかすかな笑顔。その一つ一つが現実離れしていて、まるで夢を見ていたかのようです。しかし、確かに彼の胸には温かなものが残っていました。地球外から来た二人と友情を育み、分かり合えたかもしれないという喜びと、そして一抹の不安…。

ゾル=ヴァは最後まで自分たちの任務の詳細を語りませんでした。ただ「いずれ帰還する」とだけ告げた彼の横顔はどこか影を帯びていたように思えます。光一はその表情が気にかかっていました。任務とは一体何だったのか?感情を集めた先に何をしようとしているのか?穏やかに朝を迎えた渋谷の街を見下ろしながら、彼の胸には小さな疑念が生まれていました。

「先生!」そこへさくらが駆け込んできました。彼女も興奮冷めやらぬ様子で、「これ見てください!」とスマホの画面を見せます。

画面にはゴンゴンからのメッセージが映っていました。昨夜別れ際に交換した連絡先に、ゴンゴンから短い文章が届いていたのです。

「今日、夕方6時、昨日のファミレス近くの公園で会えへん?大事な話があるんや」

と書かれていました。さくらは「きっとまた会えると思ってました!」と顔を輝かせますが、光一は少し胸騒ぎを覚えました。「…何だろうな、嫌な予感がする」呟くと、さくらは不安そうに「あの二人、何か困っているんでしょうか」と表情を曇らせます。「行ってみるしかないな」と光一は決心しました。

その日の夕方、光一とさくらは約束の公園へ向かいました。公園と言ってもビルの谷間にある小さな広場で、人通りもまばらです。時計が18時を指す頃、周囲を見回すとゴンゴンの姿がベンチに座っているのが見えました。派手な柄シャツは目立ちます。彼は二人に気づくと手を振りました。「やあ、お嬢ちゃんに先生!来てくれておおきに」近づくと、ゴンゴンの表情はどこか浮かない様子です。「どうしたんですか?」さくらが心配そうに尋ねると、ゴンゴンは「実はな…」と声を潜めました。

彼は昨夜の後、ゾル=ヴァが本部にデータ送信と報告を行ったこと、そして今日これから地球侵略に関する会議が開かれることを語りました。「会議…ですか?」光一が聞き返します。「ああ、オレらの母星の偉いさんらとのオンライン会議や。リーダーは今、隠れ場所でその準備をしとる。多分…侵略の日取りとか具体的な指示が下るはずや」ゴンゴンの声は震えていました。「…正直、オレは乗り気やない。人間を傷つけたくないんや…」俯く彼の拳がぎゅっと固く握られています。

「ゴンゴンさん…」さくらはそっと彼の腕に触れました。「ありがとう…そう言ってくれて」涙を浮かべるさくらに、ゴンゴンはかぶりを振ります。「せやけど、ゾル=ヴァは任務に忠実や。リーダーやから責任もある…せやけど…」言葉に詰まる彼に、光一が静かに尋ねました。「ゾル=ヴァさんは、どうするつもりなんです?」ゴンゴンは答えられず、ただ唇を噛み締めます。その態度が答えを物語っていました。ゾル=ヴァは侵略計画を止める気はない――少なくとも今は。

「なんとか止められないんですか?」さくらが縋るように問いかけます。ゴンゴンは悔しそうに首を振りました。「リーダーは頑固やからな…。オレ一人で説得できるかどうか…でも、せやから君らに相談したんや」彼は真っ直ぐ二人を見つめました。「昨日、リーダーは確かに感情に興味を示しとった。君らと過ごして、何かが変わったように見えたんや。それでも任務を優先してしまうなら…オレにはリーダーを裏切ってでも止める覚悟がある」その言葉に、光一とさくらは息を飲みました。

「裏切るって…ゴンゴンさん…」さくらが戸惑うと、ゴンゴンは悲しげに笑いました。「ほんまは裏切りたないで。リーダーはオレにとっても大事な仲間や。でも、このまま侵略なんか始めさせたら、オレ、自分を許されへんと思うねん」彼の目には涙が滲んでいました。友情と使命の板挟みになり、苦悩する様子に、光一は拳を握りしめました。「僕たちにできることはありますか?」力強い声で問うと、ゴンゴンははっと顔を上げます。「光一先生…」「今はリーダーを説得するしかないでしょう。僕たちも一緒に行きます。彼に直接話をさせてください」光一の決意に、さくらも大きく頷きました。「お願いします!私からも…ゾル=ヴァさんに伝えたいことがあります!」

ゴンゴンは驚いたように二人を見つめましたが、やがて「…頼もしいなぁ」と微笑みました。「ほな、一か八かやってみよか!リーダー、怒るやろなぁ…怖いけど、背に腹は代えられへん」彼は涙を拭い、決意を新たに立ち上がりました。「リーダーは今、秘密の場所におる。ついてきてくれるか?」

光一とさくらが頷くと、ゴンゴンは周囲を確認してから歩き出しました。少し離れたビルの裏手に小さな扉があり、彼はそこで立ち止まります。「実はな、この地下に小型の基地みたいなんを作っとったんや」そう言って暗証パネルに触れると、扉がウィーンと音を立てて開きました。二人が驚いている間に、ゴンゴンは「こっちや」と手招きします。

扉の先は薄暗い階段でした。非常灯だけが頼りのコンクリート壁の通路を降りていくと、地下倉庫のような広い空間に出ました。そこには様々な機械装置やモニターが並び、簡易的な司令室のような雰囲気です。そして中央には、一人佇むゾル=ヴァの姿がありました。大きなスクリーンに向かい、ヘッドセットのような装置を耳にあてています。青白い光に照らされたその横顔は緊張に強張っていました。

「リーダー!」ゴンゴンが声をかけるよりも早く、ゾル=ヴァはこちらに振り向きました。彼は目を見開き、光一とさくらの姿を認めると険しい表情になります。「…何故君たちがここにいる?」冷たい声が地下に響きました。ゴンゴンが二人をかばうように前に出ます。「す、すまんリーダー!オレが二人を…」「貴様…」ゾル=ヴァは鋭い目つきでゴンゴンを睨みました。「私に背くつもりか?」

緊迫した空気に、さくらは息を呑みました。ゴンゴンは拳を震わせながらも、まっすぐゾル=ヴァを見据えます。「リーダー、お願いや…話を聞いてくれ!」しかしゾル=ヴァは聞く耳を持たない様子でした。「愚か者め。貴様が我々の存在を人間に漏らしたのか?」彼の声には明らかな怒りが滲んでいます。

「それは違います!」堪らず光一が口を挟みました。「俺たちがゴンゴンさんに頼んだんです。ゾル=ヴァさん、あなたと話をしたくて…!」ゾル=ヴァは冷ややかな視線を光一に向けました。「話だと?何を語ることがある。我々は任務を遂行するだけだ」彼は壁際のコンソールを操作し始めました。「あなたたちが今から何をしようとしているのか、知っています」さくらが震える声で言いました。「地球を…侵略するつもりなんでしょう?」

ゾル=ヴァの手が止まりました。「知っていたか」その声は低く抑えられていました。「そうだ。我々はこの星を支配下に置く。貴様らと過ごしたのもその調査の一環に過ぎん」突き放すような言葉に、さくらは顔を曇らせます。「嘘です…!昨日、一緒に笑ってくれたじゃないですか!」必死に訴える彼女に対し、ゾル=ヴァは目を伏せました。「あれは…任務の一部だった。感情というものをより深く知るためにお前たちに接触したまでだ」感情のない平坦な声。しかし、どこか苦しげにも聞こえます。

「リーダー、本音ちゃうやろ!」ゴンゴンが叫びました。「オレは見てたで。リーダー、昨日楽しそうにしとった!お嬢ちゃんや先生に心開きかけとったやないか!」彼の言葉に、ゾル=ヴァの眉がピクリと動きました。「黙れ…私は任務を遂行する。余計な干渉は許さん」彼は淡々とそう言いましたが、その拳は固く握られています。

「ゾル=ヴァさん…」光一が一歩前に出ました。「あなたは昨日、『人間の感情は興味深い』と言っていた。あれは嘘じゃないでしょう?あの時、あなた自身が感情を持ち始めていたんじゃないですか?」静かな問いかけに、ゾル=ヴァは顔を上げます。「……」その瞳が揺れているのを、光一ははっきりと感じました。「あなたは本当は侵略なんてしたくないんじゃないですか?」さらに踏み込んで尋ねると、ゾル=ヴァの表情が苦悩に歪みました。

「私は…」ゾル=ヴァは言い淀みました。しかし次の瞬間、頭上のスクリーンにノイズ混じりの映像が映し出されました。異星の言語で何やら声音の低い呼びかけが響きます。母星からの通信が始まったのです。ゾル=ヴァははっとして姿勢を正しました。「…会議が始まる。ゴンゴン、貴様は外へ出ていろ」鋭い命令に、ゴンゴンは「で、でも…」と抵抗しましたが、「命令だ」と有無を言わせぬ声に押され、唇を噛みます。光一とさくらも立ち去るよう促されましたが、二人は動きませんでした。

「僕たちも…聞かせてほしい」光一は意を決して言いました。「ここまで来た以上、最後まで見届けたいんです」さくらも頷きます。ゾル=ヴァは苛立たしげに舌打ちしましたが、「勝手にしろ」と吐き捨て、スクリーンの方へ向き直りました。

スクリーンにはぼんやりと幾つかの人影ならぬ異形のシルエットが映し出されています。巨大な頭部や触手のようにも見える輪郭もあり、遠目には表情までは読み取れませんが、明らかに人類とは異なる姿です。これがおそらくゾル=ヴァたちの上層部なのでしょう。音声はゾル=ヴァたちには理解できる言語で聞こえてきました。「ゾル=ヴァ、報告せよ」威厳ある声が命じます。ゾル=ヴァは姿勢を正し、「ハッ」と答礼しました。「地球人類の感情データ収集は概ね完了しました。喜び、怒り、悲しみ、恐怖など主要な感情のエネルギー波形と強度を記録済みです」彼は淡々と報告します。「恐怖」について若干データ不足があるものの…と一瞬言いよどみましたが、「概ね計画通りです」と言い切りました。

スクリーンの影の一つが低く笑いました。「ご苦労だった。では、予定通り我々の艦隊を地球に展開させる。感情データの解析により、人類の心理を揺さぶる兵器を使用するつもりだ。お前たちは引き続き現地で陽動を行え」威圧的な指示が飛びます。「はっ…」ゾル=ヴァは答えましたが、その声はどこか沈んでいました。

さらに別の影が尋ねます。「地球人に我々の存在を感づかれた兆候は?」ゾル=ヴァは一瞬、背後にいる光一たちの存在を意識しましたが、「いいえ、現在のところ任務は秘匿裏に遂行されています」と嘘をつきました。ゴンゴンはその答えに目を見開きました。ゾル=ヴァは彼らを庇ったのです。「よろしい。いずれにせよ、侵略開始後は証拠隠滅を徹底せよ」と冷酷な命令が下り、ゾル=ヴァは「はっ」とだけ返しました。

「では侵略決行は48時間後とする。それまでに作戦準備を完了させよ。以上だ」そう言って通信はぷつりと途絶え、スクリーンが暗転しました。静寂が戻る地下室に、ゾル=ヴァの吐息だけが響きます。ヘッドセットを外した彼の横顔は苦悩に歪んでいました。光一とさくら、ゴンゴンは凍りついたように彼を見つめています。

「…あと48時間で…侵略が始まる…」さくらが青ざめた顔で呟きました。その現実に、光一も言葉を失います。「く…」ゾル=ヴァが唇を噛み締めました。「やはり…こうなってしまうのか…」その声はかすかに震えています。ゴンゴンは堪らず前に進み出ました。「リーダー!今の命令、聞いたやろ!?侵略が始まったら、もう後戻りできへん!今からでも…なんとか中止する方法を…」絞り出すような声で訴える相棒に、ゾル=ヴァは振り返りざまに怒鳴りました。「どうしろと言うのだ!私に逆らえというのか!?」

怒声が地下室に響き渡り、ゴンゴンは言葉を失いました。ゾル=ヴァの目には狂おしい葛藤の色が浮かんでいます。「私はリーダーだ。任務を遂行しなければならない。それが私の…存在意義なのだ」彼は自分に言い聞かせるように呟きました。「なら、なんで俺たちを庇ったんですか」不意に光一が口を開きました。ゾル=ヴァが会議で嘘をついたことを指摘したのです。ゾル=ヴァはハッとし、しかしすぐに顔を背けます。「…気まぐれだ」

「ゾル=ヴァさん…」さくらが一歩彼に近づきました。「あなたは…優しい人です」ぽつりと漏らしたその言葉に、ゾル=ヴァはぎょっとします。「何を…」「だって、私たちのことを守ってくれた。ゴンゴンさんのことも、大事に思ってる。私、わかります。昨日一緒に過ごして…あなたが本当は誰より仲間想いだって…」さくらの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちました。「お願いします…侵略なんて、やめて…!」必死の訴えに、ゾル=ヴァは胸を突かれたように息をのみました。

「お嬢ちゃん…」ゴンゴンも目に涙を浮かべています。光一は静かに続けました。「あなたはもう知ってしまったんです、人間の心を。友情を。ここで侵略を強行したら…きっと後悔する」ゾル=ヴァの瞳が揺れます。「後悔…?」彼はその言葉を噛み締めるように繰り返しました。自分が後悔する?任務を果たさねばならないのに?心の奥底から何かが込み上げてきます。それは昨日まで知らなかった感情――苦しさ、悲しさ、そして…孤独。「私は…どうすれば…」ゾル=ヴァの声が掠れました。決断の時が、迫っています。

その時でした。上階から人の話し声が聞こえてきたのです。「ここだよ、SNSで話題になってた地下スタジオって!」「例の二人組がここに?」どうやらネット上の噂を嗅ぎつけて、興味本位の若者たちが近づいてきたようでした。昨夜のダンス動画の影響で、一部のネットユーザーが「彼らは地下で何か活動しているらしい」と面白半分の推測をしており、それを真に受けた者が探し回っていたのです。扉の隙間から懐中電灯の光が差し込みました。「やば、誰かいる!」さくらが小声で叫びます。

「くっ…」ゾル=ヴァは一瞬で表情を引き締めました。「まずい、人間にここを知られるわけには…」しかしもう遅い、若者の一人が「誰かいるんですかー?」と階段を降りてこようとしています。このままでは彼らに正体が露見し、パニックになりかねません。

ゾル=ヴァは咄嗟に感情センサーを操作しました。スクリーンに先程の恐怖を与えるホログラム映像が再度表示されます。「リーダー!?」ゴンゴンが驚く間に、ゾル=ヴァはホログラムの怪物を階段の方へ向かわせました。地下倉庫の入り口付近に巨大な怪物の幻が現れると、「うわあああ!」と若者たちの悲鳴が聞こえ、ドタドタと足音が遠ざかっていきます。「ひぃ!何だ今の!?」「マジ幽霊!?やべぇ…」怯えた声が遠ざかり、やがて静寂が戻りました。

ゾル=ヴァはホログラムを止め、深く息をつきました。「…追い払ったか」彼は呟きます。ゴンゴンが安堵の笑みを浮かべました。「リーダー…!」ゾル=ヴァはゴンゴンに向き直り、険しい顔で言いました。「勘違いするな。今のは一時凌ぎだ。これ以上人間に知られれば厄介だからな」そう言いながらも、その声はどこか優しく響いていました。

「ゾル=ヴァさん…」さくらが潤んだ目で見つめます。ゾル=ヴァは一瞬視線をさまよわせましたが、意を決したように頷きました。「…侵略は中止させる。私が責任を取る」その宣言に、さくらは「…!」と息を飲み、光一とゴンゴンは顔を見合わせました。ゾル=ヴァは感情センサーからデータチップを取り出すと、それを握り潰しました。パキンという音と共に、これまで収集した感情データが記録された媒体が砕け散ります。「リ、リーダー!?」ゴンゴンが驚いて叫びました。「データがなければ、連中もすぐには動けまい。時間を稼ぐうちに…何とか説得を試みる。こちらから母星に通信し、直接上層部に撤回を求めるつもりだ」ゾル=ヴァの瞳には、もはや迷いはありませんでした。

「そんなことしたら…あなたが危険なんじゃ…」光一が心配そうに言います。上官への反逆とも取れる行為です。ゾル=ヴァは薄く笑いました。「構わないさ。地球で学んだことを…無駄にはしたくない」そう言って彼は光一たちを見渡しました。「君たちには世話になった。ありがたく思っている」毅然とした口調ですが、その目はどこか温かでした。「ゾル=ヴァさん…!」さくらは涙を拭って笑顔を浮かべました。ゴンゴンは鼻を啜りながら「リーダー…ほんま、ええんか?」と尋ねます。「ああ。私は…君たちを裏切れない」静かに告げた言葉に、ゴンゴンは満面の笑みで「リーダー!!」と叫び、ゾル=ヴァに飛びつきました。「うお、やめろ抱きつくな」と苦笑するゾル=ヴァの背に、ゴンゴンはしがみついたまま「うわぁん!リーダー最高や!」と泣きじゃくります。

光一とさくらも思わず笑いました。その瞬間、地下室の空気がふっと軽くなったように感じられました。確かに困難は残っています。しかし今、この場にいる四人の心は固く結ばれていました。「地球を守るために、一緒に頑張りましょう!」さくらが拳を握って言いました。ゴンゴンは「おうとも!オレも芸人魂かけて頑張るで!」と親指を立てます。光一はゾル=ヴァに向き直り、深く頷きました。「僕たちにできることがあれば協力します。一緒にこの危機を乗り越えましょう」ゾル=ヴァは静かに微笑み、「ああ、頼りにしている」と答えました。

こうして、地球侵略を巡る大きな危機はひとまず回避され、異星人と人間が手を取り合う形となったのです。しかしこの物語には、もうひとつ“オチ”が待ち構えていました…。

第5章:衝撃のラスト(オチ)

それから二日後――決行の日が訪れました。東京の空は朝から不穏な曇り空で、人々も何かを予感するかのように落ち着きなく空を見上げています。渋谷駅前のスクランブル交差点では、日野光一とさくら、そしてゾル=ヴァとゴンゴンが肩を並べて立っていました。4人は固い決意の表情で空を見上げています。雲間から差し込む光の筋が次第に強まり、無数の発光体が大気圏に突入してくるのが見えました。「来る…!」ゾル=ヴァが低く呟き、光一は拳を握りしめます。さくらは震える手をゴンゴンがそっと握り、「大丈夫、ワレらがついとる」と微笑みました。頭上から轟音が響き渡り、人々の悲鳴が上がります。巨大な三角形の飛行物体が109のビル上空に姿を現し、それを見た群衆は蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出しました。光一はさくらを庇うように肩を引き寄せ、必死に周囲を見回します。すると上空の宇宙船から眩い光線が放たれ、視界が真っ白に染まりました――。

――そして場面は暗転する。

静寂の中、黒い画面に白い文字が浮かび上がった。

『Netflix ドキュメンタリーシリーズ
「宇宙人、渋谷に降臨。〜侵略のつもりがバズってしまった件〜」Coming Soon…』

続いて、映画さながらのスタッフロールが流れ始める。

  • 監督: 渋谷太郎
  • 脚本: 宇宙ドキュメンタリープロジェクトチーム
  • 出演: 日野光一(本人役)、さくら(本人役)、ゾル=ヴァ(本人役)、ゴンゴン(本人役)
  • 撮影: 渋谷スクランブル映像社
  • 音楽: 宇宙交響楽団 ft. ハチ公
  • 協力: 渋谷区の皆さん、宇宙連盟広報部
  • 製作: Netflix & 宇宙人エンターテインメント

スタッフロールがフェードアウトすると、今度は明るいスタジオのセットが映し出された。壁には銀河のイラストが描かれ、天井から惑星やUFOの模型がぶら下がっている。中央に丸いテーブルとソファが置かれ、その周りにゾル=ヴァとゴンゴン、そしてモデレーター役のさくらが座っていた。「宇宙人座談会」と書かれたタイトルロゴがキラキラと画面に表示される。

さくら:「皆さん、最後までご覧いただきありがとうございました!ここからは特別企画『宇宙人座談会』をお送りします!」
ゴンゴン:「いや〜、まさか自分らのドキュメンタリーがNetflixで配信されるなんて、ワレらほんまビックリやで!」
ゾル=ヴァ:「…まったくだ。私は元々極秘任務のはずだったのだが、いつの間にかカメラに追われていたとは」
さくら:「ふふ、ゾル=ヴァさんもすっかり有名人ですよ?SNSでファンクラブまでできてましたし!」
ゾル=ヴァ:「ファ、ファンクラブ…?」(困惑したように眉を上げる)「私は別にアイドルになったつもりはないのだが…」
ゴンゴン:「リーダー、あれやで。渋谷の女子高生らが『無表情がクール!ゾル様素敵!』言うてキャーキャーや」
ゾル=ヴァ:「そ、そうなのか…」(戸惑いつつもまんざらでもない様子で)「人間とは理解し難い…」
さくら:「ゴンゴンさんは一躍人気者ですね!あのダンス動画、再生回数1000万超えましたよ!」
ゴンゴン:「マジかいな!どおりで吉本興業※からスカウトの電話が来るわけや!」(※吉本興業:日本の有名お笑いプロダクション)
さくら:「え、本当ですか!?デビューしちゃいます?」
ゴンゴン:「うーん、悩むとこやなぁ。宇宙帰らずに、日本で芸人なろか思てまうわ!」(笑い)
ゾル=ヴァ:「任務放棄にも程がある…」(呆れつつも微笑んで)「だが、君には地球で果たす役割があるのかもしれんな」
ゴンゴン:「リーダー、それ褒めてくれとるん?せやったら遠慮なく第2の明石家さんま目指させてもらいまっせ!」(一同笑)

さくら:「さすが関西弁のゴンゴンさん、チョイスも関西!(笑)」
さくら:「次の質問です。ペンネーム『心配性な宇宙ファン』さんから。「結局、地球侵略はどうなったんですか? 上層部の皆さんは怒っていませんか?」」
ゾル=ヴァ:「侵略計画は正式に撤回された。私が詳細な報告を行い、地球人とは友好的関係を結ぶ方が有益だと進言したんだ」
ゴンゴン:「上層部の連中も最初はカンカンやったけどな、オレらが持ち帰ったたこ焼きを食べさせたら機嫌なおったんやで!」(一同笑)
ゾル=ヴァ:「多少脚色があるが…概ね平和的に解決した。今では我々の星でも渋谷のドキュメンタリーが配信され、評判は上々だ」
さくら:「それは良かったです〜!みんな仲良くなれたんですね!」

さくら:「では次の質問。ペンネーム『星空の詩人』さんから。「ゾル=ヴァさんは感情が芽生えた今、好きな地球の言葉はありますか?」」
ゾル=ヴァ:「好きな言葉…そうだな…『ともだち』という言葉だ」
ゴンゴン:「おお〜!」
さくら:「素敵ですね!」
ゾル=ヴァ:「地球で出会った大切な人々を思い出させてくれる言葉だ」(照れくさそうに)
ゴンゴン:「リーダー…それ、めっちゃええ話やん」(目を潤ませる)「…泣けてくるわ」
さくら:「私も感動です…!」(目をハンカチで押さえる)

ゴンゴン:「ほな最後に、リーダー。地球のみんなに一言、メッセージ頼むで!」
ゾル=ヴァ:「メッセージか…」(少し考えてから、カメラに向き直り)「人間の持つ感情は、強く、美しい。我々はそれを知り、共に歩む道を選んだ。これからも…あなたたちの友情と笑顔を、守りたい。
さくら:「ゾル=ヴァさん…!」
ゴンゴン:「決まったなぁ!リーダー、カッコええで!」(拍手)

さくら:「では、そろそろお時間となりました。最後に皆さんでご挨拶しましょう!」
ゾル=ヴァ:「地球の皆さん…」
ゴンゴン:「おおきに!そして…」
さくら:「これからも、」
三人:「よろしくお願いしま〜す!!」(笑顔で手を振る)

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(スタジオの照明が暗転し、画面には再びNetflixのロゴが表示される。エンドクレジットに流れる軽快な音楽とともに、4人の出会いから別れまでを収めたモンタージュ映像が流れ、物語は幕を閉じるのだった。)

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ODEN TAROU

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🍢太郎経歴

2022年1月      Chat GPTなどのAIを独学で学ぶ

2023年7月
      Midjourneyを使いKindle8冊出版
https://x.gd/JlNNH
2024年6月      noteでブログ記事を900件以上投稿
https://note.com/rich_15/ https://note.com/strawberry1982/
2024年9月 トレンド情報ブログ&おさんぽYouTube開始 
https://www.youtube.com/@user-odentarou
2024年10月Lo-Fi Jazz作業用BGMYouTube開始 
https://www.youtube.com/@Lo-FiJazzSmoothBeatsforRel-l7k
2025年4月   
撮り鉄YouTube開始
https://www.youtube.com/@tokyotrainasmr

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